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No.25

白い霧【1】

創作性転換小説です。
R18になるかもしれません。高校生同士のカプです。


僕が育ったその街は、真っ昼間でも雲海めいた白い濃霧に覆われている。
「街の至るところに霧が発生している」という点を除いては、ごくありふれた地方都市だ。およそ四十万人が住むその都市の名は美咲乃《みさきの》というが、さして花苗物の栽培が盛んなわけではない。つい数十年前まではデコポンやスイカなどの農作物で有名だったが、西暦二○××年を迎えた現在、その位置は魔術産業に取って代わられてしまった。

僕の家は二階建ての古びた一軒家だ。町は繁華街からかなり離れた場所にある。周囲にはほぼ古い住宅しかない。近くのコンビニに行くには、自転車で片道十五分はかかる。
塾帰りの夜、最寄りのコンビニで少年誌を立ち読みしていたところ、
「こんなところで寄り道していていいのか?」
と声をかけられた。
いきなり真横から男の声が響いたものだから、思わず肩がびくついた。
というのも、僕は──昨日、女の子になったばかりなのだった。

前述の通り、美咲乃という土地は魔術産業で栄えている。市街に行けば魔術探偵所なんてものがあるし、魔導書だけを販売する会員制の書店もある。治療魔法を使って人々の心身を癒やすまじない医だって存在する。
けれど、美咲乃が世界的に有名な理由はそれだけにとどまらない。
この街で生まれた男児の一部は、成長すると「女の子」に性転換してしまうのだ。
前世紀の末頃に発見されたこの現象の原因は、いまだ解明されていない。多くの魔術師たちがあらゆる手を尽くしてメカニズムを探ったものの、今もなお不明だ。
「トランスエフ病」と名づけられし恐るべき奇病は、美咲乃で生を受けた男の子だけが罹患する。科学の力をもってしても、魔術の力をもってしても、元の性別に戻る手立てはない。一度女性化したら、決して男には戻れないのである。

完全に虚をつかれた僕は「ひっ」と声を上げたあと、ゆっくりと横を見た。
そこには、大柄な体躯をした、いかにも喧嘩の強そうな男子生徒がいた。

【続く】畳む


#一次創作
#性転換小説

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