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No.36

白い霧【3】

出来立てのアメリカンドッグに揃ってかじりつきながら、僕達は帰途についた。十束の言う通り、女の子になった今の僕がひとりで帰宅するのは確かに得策ではないと考えたからだ。
それに、せっかく友人が申し出てくれたのだ──理由もなしに無碍にはできまい。
「ひとり娘を塾に通わせて、自分たちはモンスター狩りかあ……。おまえの親御さんたちもなかなかの放任主義だよな」
「そんなことないよ」
はふはふと白い息を押し出しながら僕は答える。
当たり前のことだけれど、男だったときよりも随分声域は高くなっている。誰にも語ったためしはないのだけれど、実はそのことにちょっとだけ落胆していたりする。
まさか自分がトランスエフ病にかかるとは想像すらしていなかったから。
だけど、なったものは仕方がない。神様かはたまた別の高次的存在が決めた「運命」に、人間ごときが逆らえるはずがないのだ。
もっとも僕は「運命」って言葉をそんなに好んでいないのだけれど……。
「モンスター狩りは市民の暮らしを守るために必要な仕事だよ」僕は言った。
「だから父さんたちを責めるつもりはないよ。住民を守ってくれているんだもん、わがままなんか言ってられないよ」
「けどなあ……」
なおも言い返そうとする十束を尻目に、僕は串をゴミ箱に入れた。
紺色の膝丈スカートが夜風に揺られて、ふわりと膨らむ。
「十束は心配性なんだよ。僕が女の子になってからずっと、ボディーガードみたいに付きっきりで構ってくるじゃないか」
「そりゃそうだろ」
十束が串を二つに折ったあと、ゴミ箱に投げ込む。かさりと乾いた音を立て、それは箱の奥へと吸い込まれていった。
「友達が突然女になっちまったんだぜ? これが心配せずにはいられるかってんだ」
「じゃあ、何から僕を守っているの?」
「それは……」
しんとした夜のさなか、僕たちは意味深に見つめ合う。通りすがりの何者かが今の僕らを見かけたら、「あの子たち、恋人同士なのかな?」と誤解すること必至であろう。

けど、真実はそうじゃない。僕らはあくまで友人同士で、それ以上の関係にはない。
僕たちの間に恋心はない。よって、恋愛関係は成立しないのだ。畳む


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